ムシ歯予防におけるフッ素の正しい使い方

皆様、こんにちは!
歯科衛生士の市川です

前回は、フッ素がムシ歯予防にどのように働きかけて作用するのか、などフッ素の効果を少し深掘りしてお話させて頂きました。

ムシ歯予防の強い味方であるフッ素、実際に使われている方も多いと思いますが、 使う年齢や歯磨剤の適正量など皆様はご存知でしょうか?

正しい量や使用法を是非知って頂き、上手にフッ素を活用して欲しいと考えておりますので、今回は『フッ素の効果を最大限に活かす正しい使い方』をお伝えしたいと思います。

ムシ歯予防におけるフッ素の正しい使い方
①歯磨きだけでは不十分な理由
②フッ素応用の種類
③フッ化物配合歯磨剤の推奨量
④フッ素を残す為の2つの工夫
⑤東京都保健医療局の取り組み

①歯磨きだけでは不十分な理由

ハブラシによる歯磨きだけでは、ムシ歯の予防効果は不十分だということがデータで示されています。
ムシ歯になりやすい所は、奥歯の咬み合わせの溝の中や、歯と歯の間など、ハブラシの毛先が物理的に入り込めない、磨きづらい細かい隙間の部分です。
一度ムシ歯を削って補う材料を詰めた所も要注意です。
一度ムシ歯になったという事は、ムシ歯菌によって酸が作られやすく、歯が溶けやすい環境という状況なので、単にムシ歯菌で穴があいた歯の部分を別の素材で補ったとしても、同じようなムシ歯ができる環境は何も変わっていないからです。
ハブラシが届きづらい所がムシ歯になりやすいので、フッ素の働きを利用しムシ歯に負けない強い歯を作っていかれると良いのではないかと思います。

神奈川歯科大学大学院歯学研究科教授の山本龍生先生による資料を一部抜粋して下記に紹介させて頂きます。

奥歯の溝に歯ブラシの毛先が届かないことを示すイラスト
(『ボケたくなければ「奥歯」は抜くな』より引用)

合わせて、東北大学大学院歯学研究科准教授の相田潤先生による資料も一部抜粋して下記に紹介させて頂きます。

奥歯の断面図で、裂溝や深い溝にブラシが届かず、むし歯が発生しやすいことを示している
(世界で最も多い病気から身を守ろう! 知られざるフッ化物(フッ素)の有効性 より引用)

上記の2つのデータからも、ムシ歯菌をハブラシだけで完全に取り除く事がいかに難しいかが解りますね。

ムシ歯はムシ歯菌によって作られた酸が歯を溶かして歯に穴があく病気なので、歯の質を強くして酸に溶けにくくすればムシ歯予防に繋がります。

ムシ歯予防としてフッ素を使う事で得られる、『再石灰化の促進』、『歯質強化』、『細菌による酸産生の抑制』、これらのフッ素の働きをより効果的に歯の健康にアプローチ出来ると良いですね。

毎日のケアでフッ素をしっかりと取り入れ、継続的にムシ歯予防に努める事が大切です。

フッ化物の齲蝕予防メカニズム
(東京歯科大学 衛生学講座 准教授 石塚洋一先生 フッ化物応用の基礎知識 より引用)

②フッ素応用の種類 

・全身応用
経口的に摂取し消化管で吸収されたフッ素が、歯の形成期にエナメル質に取り込まれてムシ歯抵抗性の高い歯が形成され、同時に萌出後の歯の表面にも直接フッ素が作用します。
海外では行われている方法ですが、現在日本では行われていません。

1)水道水フッ化物濃度調整
2)食品へのフッ化物添加
3)フッ化物錠剤および液剤

・局所応用
萌出後の歯面に直接フッ素を作用させる方法です。
下記の3つの方法の基本的な違いは、使われているフッ素の濃度の違いです。
市販で購入できるフッ素は濃度が1500ppmまでと国の法律で定められている為、歯科医院で取り扱っているフッ素の9000ppmよりも濃度が低いです。
ムシ歯を予防する効果は濃度によって変わるため、歯科医院ではより効果の高いフッ素塗布が受けられます。

1)フッ化物歯面塗布

高濃度のフッ化物溶液やゲル(ジェル)を歯科医師や歯科衛生士が直接歯面に塗布する方法です。
乳歯ムシ歯の予防として1歳児から、また成人では根面ムシ歯の予防として実施し、矯正治療中の方や唾液量の低下している方など、ムシ歯リスクの高い方に対して実施されています。
効果は3ヶ月程続くとされていますので、3ヶ月ごとに歯科医院でフッ素塗布するのが理想的です。

2)フッ化物洗口

一定濃度のフッ化ナトリウム溶液(5~10ml)を用いて1分間ブクブクうがいを行う方法です。
永久歯のムシ歯予防手段として有効であり、大人の歯(6歳臼歯)が生え始める4〜5歳頃から永久歯が生え揃う中学生くらいまでに行うとムシ歯を約半分に減らす事が出来るというデータもあります。
フッ化物洗口液は歯科医院や薬局などでも購入できるので、ご家庭でのセルフケアにも取り入れやすいです。
また、保育園や幼稚園や小学校など集団で実施されている所もあります。

3)フッ化物配合歯磨剤

フッ化物(モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一スズ)を含む歯磨剤です。
幼児から高齢者まで生涯を通じて家庭で利用できる身近なフッ化物応用で、世界で最も利用人口が多い方法です。
フッ化物配合歯磨剤使用によるムシ歯予防効果について世界的にも数多くの調査があり、乳歯ムシ歯、成人や高齢者の根面ムシ歯の減少率は著しいです。

「新潟県福祉保健部健康づくり支援課 健康にいがた21」にてデータを公開していますので、詳しくお知りになりたい方は下記のURLをご覧下さい。

https://www.kenko-niigata.com/hatokuchi/3f/2/457.html

③フッ化物配合歯磨剤の推奨量

2023年1月に、年齢ごとのフッ素配合歯磨剤の推奨使用量と濃度が変わりました。

・歯が生えてから2歳まで
フッ素濃度が、500ppm→1000ppmに引き上げられました。
使用量は、米粒程度(1~2mm)です。
ハブラシが使用出来ない乳児では、ガーゼやコットンで代用してみて下さい。
うがいが出来ないお子様にはジェルタイプがお勧めです。
乳歯は歯質が薄いので虫歯になりやすく進行も早いため、乳歯が生え始めたらフッ素の始め時です。
フッ素使用にて歯を強化しムシ歯にならないよう、お子様の歯を守ってあげられると良いと思います。

・3〜5歳
フッ素濃度が、500ppm→1000ppmに引き上げられました。
使用量は、グリーンピース程度(5mm)です。

・6歳〜大人、高齢者
フッ素濃度が、1000ppm→1500ppmに引き上げられました。
使用量は、ハブラシ全体(1.5~2cm)です。
永久歯が生え始めた時期が大切な時期で、生えたての永久歯は歯の表面が弱くて歯の溝が深い為に最もムシ歯になる確率が高いので要注意です。
大人になってからは、年齢が上がると歯周病が進行し歯肉がやせて根元が露出してくる場合があり、露出した根面はやわらかくムシ歯になりやすい為、フッ素を使用する事により歯質を強化しておくと良いと思います。

ようやく日本も世界に追いつく形で、フッ化物配合歯磨剤のフッ素濃度がISO(国際標準化機構)基準の1500ppmと同じになりました。
今回の改訂では、歯が生えてから5歳までは「1000ppm」、6歳以降すべての人は「1500ppm」のフッ素濃度を推奨する事となりました。
フッ化物濃度1000ppmで約23%、1500ppmで約30%のムシ歯予防効果が期待されるというデータもあります。
全体的に推奨されるフッ素濃度が上昇したということは、それだけフッ素の効果が重要視されるようになったと同時に、安全性も保証されるようになったのだと感じています。

2023年1月1日、 日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会の4学会が合同で、フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法の新たな基準を発表していますので、一部抜粋して下記に紹介させて頂きます。

フッ化物配合歯磨剤の推奨利用量

(4学会によるフッ化物配合歯磨剤の推奨利用量 より引用)

詳しくお知りになりたい方は、下記のURLをご覧下さい。

https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:79f5a85d-3e50-484e-b678-1133242eebef

④フッ素を残す為の2つの工夫

普段の歯磨きにおいて少しの工夫をすることで、フッ素を口の中に長く留める習慣が身につきますので、2つの工夫をご紹介させて頂きます。

1)少ない水で1回だけゆすぐがお勧め

歯磨きの後にハミガキ剤を吐き出したあと何度も口の中をゆすいでしまうと、口の中に残るフッ素の量が少なくなってしまいます。
なので、歯磨きの後は5~15mlの少ない水で5秒間程ブクブクと1回だけゆすぐことをお勧めします。
また歯磨きの後は最低30分、可能であれば1~2時間は飲食を控えると更に効果的です。

2)就寝前の使用がお勧め

寝ている間は唾液の分泌が減り口の中の自浄作用が低下するため、バイ菌が繁殖しやすい状態になります。
なので、寝る前の歯磨きは丁寧に行う事を心がけて頂けると更に予防効果が高まります。

2019年にNHKの番組「ためしてガッテン」で「イエテボリテクニック」という、フッ化物配合歯磨剤で歯磨きをした後、うがいをせずに吐き出すだけにする(または少量の水で1回ゆすぐ)ことでフッ素を口の中に残してムシ歯予防効果を高める方法が紹介され、大きな反響を呼びました。
この方法はムシ歯予防先進国であるスウェーデンなどで実施されている方法です。

推奨される効果的なフッ化物配合歯磨剤の使用方法
(フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方 より引用)

⑤東京都保健医療局の取り組み

東京都保険医療局での取り組みを、下記に紹介させて頂きます。

『東京都では、平成21(20)年に東京都8020運動推進特別事業として、都民の歯科保健の向上を目的に、「すすめよう!!フッ化物応用」を作成しました。
う蝕の予防を進めるためには、正しいフッ化物応用を実施することが効果的です。
局所的応用である「フッ化物洗口」、「フッ化物配合歯磨剤」、「フッ化物歯面塗布」を中心に分かりやすくまとめました。
都民の歯科保健の向上やフッ化物への知識を広めるために、歯科保健関係者がフッ化物応用に取り組む際にも有効的です。』

詳しい情報をお知りになりたい方の為に、下記にURLを添付します、

https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/shikahoken/pamphlet/susumeyoufukkabutsuouyou.html

笑顔の歯のキャラクターが青い歯ブラシで自身を磨いているイラスト

フッ素はムシ歯予防に欠かせないだけでなく、丈夫な歯や骨をつくるために大切な役割を果たしています。

適正に使えば安全でムシ歯予防に非常に効果的ですが、フッ素を使っているからムシ歯にならないわけではありません。

お菓子や甘い飲み物をダラダラ食べたり飲んだりする習慣や、歯磨きをしないで汚れがついたままにしていると虫歯になりやすくなりますので、生活習慣を整えてフッ素を使用し丁寧に歯磨きをする事が基本です。

フッ素は子供だけと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は大人の虫歯予防にも効果的です。

歯周病になると歯肉が下がりやわらかくて酸に溶けやすい歯の根の部分が露出してしまうので、歯質が弱い歯の根元はとてもムシ歯になりやすいためフッ素使用はより有効です。

今回は3回に分けてフッ素についてお伝えさせて頂きました。

お読み頂いて、もしかしたら「私はどのようなフッ素を使ったら良いのかしら?」と、思われた方もいらっしゃるかもしれません。

そのような方は是非お気軽にご相談下さい。

かがみ歯科では、患者様のお口に合ったフッ素を活用したムシ歯予防のアドバイスをさせて頂いております。

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