ムシ歯予防におけるフッ素の効果について

皆様、こんにちは!

歯科衛生士の市川です

前回は、フッ素の安全性についてお話しさせて頂きました。

ムシ歯予防に使用するフッ素とは何か、フッ素によるムシ歯予防の歴史など、それらを知る事でフッ素の安全性の理解を深めるきっかけになって頂けたならば嬉しいです。

ですが、どうしてムシ歯って出来るの?フッ素を使うとどのようにムシ歯予防に効果があるの?など、まだまだ疑問に思っている方もいらっしゃると思います。

そこで今回は、フッ素の効果についてお伝えします。

ムシ歯予防におけるフッ素の効果について
①どうしてムシ歯になるのか
②フッ素の力で初期ムシ歯を修復できる
③フッ素の働き3つ
④フッ素使用効果の実積

①どうしてムシ歯になるのか

お口の中にはミュータンス菌というバイ菌がおり、このミュータンス菌が食べかすや磨き残しなどに含まれる糖分を分解して酸性の物質を作り出し歯を溶かす、これがムシ歯の始まりです(脱灰)。

歯の表面はとても硬いエナメル質で出来ていますが、内部にある軟らかい象牙質まで進むと、どんどんと歯が溶けてムシ歯が大きくなっていきます。 

丁寧に歯みがきやフロスをしても、食べかすや汚れは完全には取り除けません。

また、バイオフィルムというミュータンス菌をはじめとする細菌の塊は、うがいや歯磨きでは取り除けず、歯科医院で行われるプロフェッショナルケアでなければ取り除けません。

お口の中は常にミュータンス菌が酸性の物質を作りやすい環境にあるため、 酸性になりやすくムシ歯が出来やすいので、放っておくとムシ歯が進みます。 

ですが実は、歯の表面はミュータンス菌が出す酸性の物質により表面が溶かされる脱灰と、唾液が仲介するミネラル分による表面の修復(再石灰化)を繰り返しています。

脱灰と脱灰との説明図
(アース製薬 歯の再石灰化に注目 より引用)

簡単なイメージで言うと、歯は酸の攻撃で弱くなったところを、唾液の力を借りて、自分で自分を治しているのです。

ところが、 「お口のケアが不十分であったり」 「食事の回数が多かったり」 「糖質の多い食べ物や飲み物をよく摂取したり」 「唾液があまり出なかったり」 など、脱灰が再石灰化を上回る状態が続くと修復が間に合わなくなってしまい、ムシ歯になるのです。

この再石灰化を助けるのがフッ素で、ムシ歯予防に効果的な役割を果たしてくれます。

(ライオン 脱灰を抑え再石灰化を促進するために より引用)

②フッ素の力で初期ムシ歯を修復できる

初期ムシ歯とは、歯の表面からミネラル成分が溶け出して弱くなる表層化脱灰という状態で、歯に穴があく(ムシ歯)一歩手前で白く濁ったように見えるのが特徴としてあげられます。

口の中では、脱灰と再石灰化が1日の中でもめまぐるしく起こっており、初期ムシ歯が出来てしまってもフッ素の活用やその他のケアにより再石灰化しやすい状態を作り出せれば修復は可能です。

初期ムシ歯が修復されるまでには半年~1年程度かかるといわれていますので、一時的にフッ素を使っても効果は十分に発揮されず、口の中の環境は変化し脱灰に傾くリスクは常にあるので、継続して使うことがムシ歯予防に繋がります。

むし歯の進行を説明したイラスト
(サンスター ムシ歯と初期ムシ歯の違い より引用)

③フッ素の働き

再石灰化の促進
細菌(プラーク)が出す酸により、歯にとって大事な成分「カルシウムやリン」が溶け出して、そのまま放置しておくと歯の結晶に穴が開いてムシ歯になってしまいます。
フッ素がお口の中にあると、「カルシウムとリン」が歯に取り込まれやすくなり、溶け始めた歯の修復(再石灰化)をフッ素の力でどんどん促進して歯の修復を助けてくれます。

歯質強化
フッ素とともに修復された歯の結晶は、元々の歯質よりも丈夫になりより強い歯になります。
ムシ歯は酸によって歯の結晶が溶けることから始まり、溶けたところに穴が開きムシ歯になってしまいますが、フッ素がお口の中にあると歯が酸で溶けにくくなります。

細菌(プラーク)の酸産生の抑制
歯の結晶を溶かす酸はムシ歯菌が原因となり発生しますので、フッ素が持つ抗菌作用のおかげでムシ歯菌が活動しにくくなります。
フッ素がお口の中にあると、磨き残した細菌(プラーク)の中に潜んでいるむし歯の原因菌を弱めて、酸が作られるのを抑えられます。

通常の状態のお口の中は「中性」に保たれていますが、何かを食べたり飲んだりすることで「酸性」の状態に傾きます。
お口の中が酸性になると、歯のカルシウムが溶けやすく、ムシ歯になるリスクが高くなりますが、酸性に傾いたままではなく唾液の力(緩衝能)によって徐々に中性の状態に戻ります。
更にフッ素があると、歯の質を高め、歯を溶かす酸の生産を抑えることが出来るので、ムシ歯になりにくい歯と環境になっていきます。

このように、フッ素はムシ歯予防に効果的な働きがあります。

フッ素の働きのイメージ図
(予防歯科から生まれたクリニカ 大切なのはフッ素の力 より引用)

④フッ素の普及とムシ歯減少の実績

DMFT指数とは、1人平均永久歯う蝕経験指数(全ての歯のうち、ムシ歯になった歯、抜いた歯、削った歯、詰め物をした歯、などで健全な歯本来の状態ではなくなってしまった歯の割合)を表します。

下記の図は、1987から2011年までのフッ化物配合歯磨剤の市場占有率と歯科疾患実態調査による12歳児のDMFT指数を示したものであり、フッ化物配合歯磨剤の普及とDMFT指数は反比例して推移しムシ歯が減少していることがわかります。

フッ素の使用は、最も簡単に行えるセルフケアとしてのムシ歯予防の手段です。

ムシ歯になってしまった歯は治療が必要ですが、歯をすぐに抜いたり削ったりするのではなく、その原因となる元を早期に見つけて抜いたり削ったりする必要がない状態を保つという目的を徹底する事が重要です。

フッ素が使われるようになってから世界中のムシ歯の数が減り、日本でも昔のようなムシ歯だらけの時代は終わり予防が中心の世の中になってきています。

我が国のフッ素化物配合歯磨き剤のシェアと12歳児のDMFT
(日本口腔衛生学会 フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方 より引用)
歯がニコニコ笑っているイラスト

ムシ歯予防を目的とするフッ素の働きのポイントは、バイ菌によって歯の表面が溶ける事を抑制する、溶けてしまった歯の表面を戻す働きを促進する、バイ菌自体の働きを弱めるなど、初期ムシ歯の進行を抑えつつ健康な歯に戻す効果が得られます。

今回は、フッ素がどのようにして私達の口腔健康に貢献するのかを、少し深掘りして説明させて頂きました。

フッ素はミネラルのひとつで丈夫な歯や骨のために必要な欠かせない栄養素であり、歯科医学の分野ではフッ素の働きが広く認識されていますが、一般の方々にはあまり知られていない事もあります。

これを機に、フッ素が身近な存在と感じて頂けたら幸いです。

次回は、フッ素の効果を最大限に活かせる正しい使い方を紹介させて頂きます。

港区 白金台 かがみ歯科医院 歯科衛生士 市川

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